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あなたの魚が揺れる

 あなたの瞳を泳ぐ魚をみつめる時間が好きだった。ゆらゆらと舞うそれは鱗を落とし、水面をゆらす。目に溜まる光を時折、なみだに変えて落としていくその魚が好きだった。
 
「わたし、君と隣はもう無理かもなぁ。」君にそう言われた時、分かっている、と思った。きっと、隣で歩くことに慣れて、飽きて、うんざりしていたのだ。そう大したことではない、とでも言うようにあなたはウィスキーをあおり「さよならしよう」といった。私はこのときも、あなたの魚は綺麗だなぁ、と思っていた。魚は、優しく尾鰭を揺らす。

あなたの口から出るどんな言葉よりも、私は瞳の魚を信じていた。
どんな時も、あなたの魚を、信じていた。

「わたしたち、幸せになれないよ、これじゃあ。」
揺れる、靡く、囁く、とじる。魚が、動く、揺らめく、躊躇う。
「そうだね」と絞り出した自分の声が、少しふるえていた。
きっともう、一緒にはいない。きっともう、一生会わない。でも私は、あなたの魚が泳いでいるのが好きだから、いいの。
「さよなら、しようか。」最後は笑顔で、と思っているけれど、目に涙が濁り煌めき溜まっていく。でも絶対、ながすものかと決めているのだ。
あなたの魚が、水面を揺らすのをためらっているから。
あなたのさかなが、とけてしまってはいけないから。

​國學院久我山高校文芸部

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